とある音大生(金管)が内側に引っ込んでいる上の側切歯(2番目の歯)を抜歯した後になって相談に来た。タンギングがしにくいという理由で抜歯をしたようである。抜歯後3mmほどのスペースが残ったわけです。抜歯した歯科医はおそらく抜歯後に当然ブリッジをいれるつもりで抜歯に応じたと思われる。ところがブリッジをいれることを楽器の先生に反対され、とりあえず人工歯をボンディング剤でとめてあり、歯茎と人工歯の間の隙間から息が漏れるというのが悩みであった。ブリッジの隙間から息が漏れるという相談はよくあるのだが、多くの場合、歯茎との隙間から息が漏れるのでなく、歯のない部分というのは歯根もないのでそこの歯槽骨が凹んでいるわけで、そこに空気が溜まる感覚がするだけではないかと私は思っている。だからこの音大生も息が漏れている訳ではないだろうと考えた。実際そこを埋めても何の変化もない。人工歯が短めに作られており(対合歯と当たって脱落するのを防止したと思われる)どうやらこれが原因のようで、試しに人工歯を1mmほど伸ばして左右のバランスを整えると吹きやすくなったということであった。
私は抜歯自体を反対しているわけでなく、両隣の歯がくっついていて咬合に影響なくって将来矯正治療の予定もないのなら抜歯しても何の問題もないので、抜歯をお勧めすることがある。こういう場合でも抜いてくれない歯医者もあるので依頼書を書いたこともある。
しかし、抜歯すると両隣の歯に隙間ができる場合は放っておくことは普通しない。なぜなら、歯はスペースのある方に移動するものだからである。段々隙間に向かって両隣の歯が傾斜してきたり、もしそれまで噛んでいた歯があればその歯が伸びて来る可能性もあり、咬合が崩れることを防止するためにも通常は何らかの処置が必要になるのである。
この音大生の場合だと、抜歯をしないで上下歯列をちょっと側方拡大をしてリンガルブラケットを付ければ1年程度で演奏に悪影響を与えることなく矯正治療ができたはずなんだけど、抜いてしまった歯は戻らない。残念。