とある管楽器の奏法に関するサイトに矯正歯科に関して批判的な記事が書いてあり、ストレスに弱い私はめげる。
でも、冷静になってよく読んでみると、普段私が患者さんに説明してること&考えていること&治療の方針とほぼ同じことを言っているのである。基本的に考えていることは違わないんだと思う。
矯正器具で痛くて吹けないとか、後戻りを起こすという事例を挙げているが、これについては私もこういった不幸な目に会う人を救いたいというのが、このHPの一つの目的である。
健康や審美面から歯並びをなおす事自体が第一目標でついでに管楽器もやっているケースと、管楽器を吹いていて演奏のためによかれと矯正を考えるケースは分けて考える必要がある。
前者に関して、自分が矯正治療を受ける際に気をつけることや必要な覚悟について、そして少しでも快適に矯正器具をつけながら楽器を吹くにはどのような工夫をすればいいか述べているつもりだ。また、微力ながら歯科医への啓蒙になっているのではないかと思う。後戻りに関しては、治療法の選択や術者の治療の出来あるいは保定装置の使用状況により起ることは確かにあるのだが、楽器によっては演奏が後戻りを起こす原因になることもなくはないので、しっかり保定装置を使うとか保定装置のタイプを考慮する必要があり、そういった情報も出しているつもりである。
後者に関しては、歯並びをなおしたからといって楽器が上手くなる訳ではないことは百も承知だし、本格的に矯正治療をする時は良い歯並び咬み合わせを得ることを目標にすることを確認しているし、部分的に矯正する場合でも直したからといって演奏上の不都合が解消するとは限らない半ば実験的なことだという説明をしている。具体的にどう動かすかをよく相談し、そのためにはどういった手段があるのかという情報を提供するのが歯科医側の役目であって、選択するのは患者であることは当たり前のことである。これは管楽器奏者に限らず、矯正歯科治療全般に対しても言えることである。
当院で演奏目的で矯正をする方の多くは、ある程度吹ける方で奏法を勉強しているうちに良くなった点はあるけど歯が邪魔になってきたというケースである。だから皆さん具体的にどう歯を動かしたいという意志があり、それを私がお手伝いするというスタンスでやっている。
中にはその効果が疑問の時もあって、その時は駄目元でもアダプターを試したりわずかな歯の調整を行うこともある。それによって本人が納得し歯にとらわれることなく楽器が吹けるようになるのであれば良いのではないかと私は思うときがある。逆にアダプターで効果を試してこれはいい、ということで矯正治療に踏み切る方もおられる。もちろん、歯をいじるべきでないと思えば何もしないことも多いけど。
奏法についての情報を、本でもネットでもレッスンでも簡単に取り入れられるようになり、今までその歯並びなりに吹けていた人が「正しい奏法」を習得することで、吹けなくなったりや自分の歯並びに疑問を持つことというのはあるのだ。いわゆる正しい奏法は噛合せや歯の位置が普通の人を前提として述べられているのだから。そういった方が当院には多いので、皆さん矯正治療中であっても以前より吹きやすくなったとおっしゃる方が多い。
多くの人は「歯並びが悪い」というと凸凹がひどかったり受け口だったりすることを想像して、歯並びが悪くても管楽器は立派に吹けるとおっしゃるのだけど、私の経験では、凸凹や受け口自体は障害にはならない。それよりも口唇と前歯の高さのバランスが悪いとか、前歯が前方へ極端に傾斜しているとか、糸切り歯が中切歯よりも前に出てるとか、歯の開きが極端に左右で違うとかが、いわゆる正しい奏法をするための障害になるようである。実際にほんのわずかな歯のねじれ自体がアンブシュアに影響を与えることもあり、凸凹の程度で物を語れないのが現実である。
まあ、こんなこと書いてるから、歯を治すことで上手になると思わせる歯医者がたくさんいるなどと書かれるのだろう。情報を出さなければそれで済むのだろうけど。歯の治療を勧めているのではなくてあくまで選択肢の一つとしての情報を提供しているつもりなのだが、「つもり」にならずに謙虚にHPのコンテンツの見直しをしなければいけないのかな、と思う。