歯並びが演奏に影響しているのではないかという相談には、必ず、歯並びだけが演奏の問題というわけではないということを言うようにしている。それでも歯並びを気にしている場合は、歯並びのどういった点がどういった具体的な演奏の障害になっているかをあげてもらうようにしており、それが関連があると理解できれば私も何らかの処置を考えるようにしている。
昨日は高校生が相談に来た。吹いてもらうと歯並び以前の奏法自体の問題のように見受けられる。基本的にある程度吹けていていろいろやってみてそれでも歯並びを何とかしたいという人が当院には多いのだが、彼にはつい、もうちょっとしっかり練習してそれでも歯に問題があると思ったらまた相談に来てね、と言ってしまった。彼が気にしている部分は演奏上の問題点とは関連がない。しかし、彼もまた高校生なりにいろいろ考え練習を積み悩んでの来院であるから、そう冷たくする訳にはいかない。影響している可能性のある歯並びの要素はお話ししたが、おそらく根本的には別な問題もあるとは思う。やるとしたらレントゲンを見て確認していろいろ可逆的な処置(アダプターとか)を試してみてということになるが、本人が納得するならそれはそれで必要な手順なのかもしれない。
その前日に来た50歳代の方は、最近他院にて矯正治療済みでほぼきれいな歯並びなのに納得していない。高音域で歯が当たるのが気になるとのこと。奏法に問題があって思い切りプレスして吹いているのだ。私は基本的にはいわゆる歯並びが良くて前歯の前面がツルっと平らなこと事体は必要ではないと考えている。理想的な歯並びでも中切歯(1番目の前歯)と側切歯(2番目の前歯)は厚さが違うので必ず段差があるものなのである。むしろ、ある程度の段差があった方が口唇の振動には必要なのかもとさえ思う。でもいろいろお話ししてみたが、奏法を変えるつもりは全くないし、ツルッとさせる(ほんのちょっとの調整)で本人が納得するのであれば、それはそれで必要な手段かもしれない。
少し前にアダプターで処置をした方は、それなりに上手な方だったのだけど、歯並びのせいにしてはいけないと自分に言い聞かせて今まで頑張ってきた、是非こういった知識を中高生に知って欲しいとおっしゃってました。歯にとらわれることは良くないけど、歯並びのせいにするなという精神論は、奏者の可能性を閉ざすことになるかもしれない。
上記の2名に関しては、もしかしたら歯の処置で良い効果は得られないかもしれないけど、歯にとらわれることから解放されるのなら、試してみる価値はあるかもしれないと思った。